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お腹に子供がいると分かったときは、夫はまだ夫ではなかった。言うのが少し怖かったのに、いざ話してみたらびっくり箱を開けたような勢いで喜んで私に抱き着いた。 お母さんになるという実感は、どんどん大きくなるお腹を見ていても湧かなかった。それでも、初めて子を宿した喜びを、その幸せを、生まれたこの子にずっと伝えていこうと強く思った。 子供が生まれたら、母は自然とおばあちゃんになる。私がお母さんになるのだから。それが妙にむず痒く、それと同時にしっかりしないと、と自分を奮い立たせた。 「俺も仕事頑張らないとな」 夫がやけに張り切って言ってくれたから、主婦業の傍らでやっていたパートも頑張れていたような気もする。 「どんな子が生まれるかな」 「杏ちゃんに似て、可愛い子がいいなー」 「男の子だったら、ひろくんに似て頼れる子になるかな」 二人でそんなことを言って、私のお腹をさすっては眺めた。そうして本当に生まれた時、夫が誰よりも大泣きをして、どっちが子供か分からなくなっていた。私はその姿を目一杯の笑顔で見つめていたと思う。 そんな風に、私も愛されて生まれてきたのかな。母を思って、私は思考を巡らせる。 結婚式の日、人前で話すのが大の苦手な母がそれでも必死に贈ってくれたのは、おめでとうよりもありがとうだった。あの時は私が号泣して、夫が私をしっかり支えてくれていた。 保育園に入園すると、迎えのバスに乗るときに私と離れるのが嫌だとぐずっていた杏理を見送りながら、私も少しだけ涙を流した。人見知りをしない子だったから不安はなかったけれど、四六時中面倒を見ていた杏理が、手を離れていく。それが嬉しいのか寂しいのか、よく分からなくなっていた。 「杏理を見送ってたら、思わず泣いちゃった」 杏理を寝かせつけた後、夫にそう零した。 「杏ちゃんは泣き虫だからなー」 そう言って、私の頭を撫でてくれた。その手がひどく優しくて、杏理の寝顔はやっぱり可愛くて。フッと笑って、「ひろくんもね」と返していた。
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