11人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
中学に上がった頃くらいから、杏理は自分の部屋で過ごすことが増えた。
「杏理ー、夕飯もうできるからお皿運ぶの手伝ってー」
台所からそう呼びかけるものの返事はなく、杏理が出てくる気配もなかった。結局、すべて料理を運び終えたところで、部屋に呼びに行く。
「もうっ、呼んだのに。ご飯、できたわよ」
「うん、今行く」
どうやら部屋で漫画を読んでいたようだった。少しだけ眉をひそめたけれど、声を上げるのはやめた。
最近、よく杏理と喧嘩をするようになった。ほんの些細なことで杏理はすぐに怒って部屋にこもるようになっていて、どう接していいものか分からなくなっていたのだ。
怒るとしばらくの間、部屋の扉は開かなくなる。ほとぼりが冷めた頃に、ころっとなんでもないような顔をして出てくるところが憎めないなぁなんて思いながら、今日あったことを話してくる杏理はやはり可愛かった。
高校2年生の夏休みに、彼氏を連れて家に帰ってきた。
「今日、ご飯部屋で食べるから、できたら呼んで」
そう言うだけ言って、杏理はすぐに部屋に戻っていった。
夫は今日も残業で帰りが遅くなると連絡があったから、今日の夕飯は母と二人で食べることになった。
「杏理にも、彼氏ができる年になったのねぇ」
そんな呑気な母の言葉が、杏理の成長を喜んでいるように聞こえた。
「ご飯の時くらい、一緒にしなさいって言ったのよ?」
「あんたもそういう時期があったんだからね。この年頃の子は、仕方がないのよ」
自分にもそんな時期があったんだっけ。母に言われて考える。そういえば、私もよく母と喧嘩していた時期があったことを思い出して、杏理は私に似てしまったのかもしれないと思った。夫に似ていたら、どうなっていたんだろう。友人を介して知り合った夫の学生時代を私は知らない。けれど、きっと素直な人だったんだろうということは、今の彼を見ていれば想像できた。
最初のコメントを投稿しよう!