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保育園バスに初めて乗っていった日、寂しくて泣いたこと。 手を繋いで、二人で夕暮れの道を歩いたこと。 夫の帰りが遅い日も、母と三人で食卓を囲んだこと。 思春期で喧嘩をして部屋にこもって出てこなくて困ったこと。 家を出ていく時に、やっぱり寂しかったけれど成長が嬉しかったこと。 ひとつひとつを思い出しながら、言葉を紡いでいった。私たち家族が、こんなにも幸せに過ごせたのは、杏理のお陰だと伝えたかった。 きっといつかは、杏理もお母さんになって、私はおばあちゃんになる。母がまだ生きていたら、ひいおばあちゃんになる。 そんな時、私が杏理にとってお母さんの先輩として、また支えてあげられる日も来るのだろう。いつまで経っても、私は杏理の母だから。友達みたいになんでも話してくれるようになったけれど、頼るべきときに頼れる存在でありたい。 きっと、夫も同じように思っているだろう。もう、何も喋れないくらい泣いてしまっているけれど。その姿が、また少し可愛くて可笑しくて笑ってしまった。 「あなたが居てくれただけで、私たちは幸せだったわ。本当にありがとうね。これからは、新しい家族と幸せに暮らしなさい。いつだってあなたの家はうちにもあるけれど、あなたが帰る場所はもうできたんだから」 そう口にすると、途端に寂しさが込み上げてきた。同時に喜びも込み上げてきて、もう何がなんだか分からなくなった。 私は家を出ないで夫がこちらに来てくれたけれど、姓は夫のものだ。杏理も、旦那の姓になる。娘であることに変わりはないのに、どうしてこんなにも涙が出てしまうのだろう。止まらなくて、声が震えて、そんな私に泣きっぱなしの夫が寄り添ってくれたのが嬉しかった。 母が席に座って、こちらを優しい眼差しで見守ってくれていた。
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