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第1章
暗い闇の底に沈んでいた意識がすっと浮かび上がった。
重い瞼を開けると見慣れた天井が視界に入る。何をしていたのか将人は自分に問いかけると、片頭痛を起こして薬を飲みベッドに横になったことを思い出す。
今何時なのか首だけ動かして壁の時計を確認すると、だいぶ寝ていたらしく午後の1時を指していた。
「12時間以上も寝てたのかよ……」
独り言を呟き上半身を起こす。寝すぎたせいか、体中がバキバキと痛い。
首や肩の筋肉を解すようにゆっくりと回してから、ベッドから立ち上がり足元に気を付けながら脱衣所へと向かった。到着すると、蛇口から勢いよく水を出して洗面台へと溜めて、両手で無造作に顔を洗い出す。そして、手探りでタオルを探し当てると顔を拭った。
「ふぅ」
すっきりとした気分になり、洗面台の鏡を覗き込む。
映っていたのは若い青年の顔。とりあえず詰めてもらった短髪。どこにでもある様な各パーツ。唇の右端を釣り上げなら、死んだ魚のような半眼でこちらを見返している。いつもと変わらない自分自身だ。
よほどの寝汗をかいていたのか不快に肌へ張り付く下着を着替えるために寝室へ戻ろうとした時だった。
ピンポーンと玄関から来客を告げるチャイムが鳴った。
こう見えても普段から来客があるのかと聞かれたら、いいや全くと答えられるほど友人付き合いがない。かといって出前なんかはよく頼んでいるが、分かる通り起きたばかりで何を食べるかさえ決まっていない。そして、何かをネット注文した記憶もないので、宅配便の兄ちゃんが来ることもない。
従って、部屋の間違いだろうと思い玄関を背後に歩き出して無視することにする。
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