一人の軍勢

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「ここまで来るのがどれだけ大変だったか、やり遂げた自分を褒めてあげたいね」 視界に収まりきらない程の巨大な城壁を前にして、初めてこの都市を訪れた人が言うであろう月並みな言葉がこぼれる。 レンガ造りの城壁と、それを囲い込む様に張り巡らされた用水路が、この場所の重要性を物語っていたよ。 正に、この国の力と思想を象徴したその建物は、平和な時代であれば人を呼び込む観光地として、そして有事の際には強固な城塞として機能するだろう。 大陸屈指の軍事国家、風に靡く(なびく)無数の国旗が松明に照らされて、その景観はため息が出るほどの絶景だった。 真夜中だと言うのに昼間の様に明るいのは、その過剰とも言える警備体制のせいだろうと―――――今、この国が置かれている状況を、それこそ如実に表していたわけさ。 まるで、なにかに脅えているような佇たたずまいが面白くて、大昔に来た時とは全く違うその雰囲気に、この俺が柄にもなく感傷に浸ってしまう程だったね。 「今更、どう足掻いても結末は変わらないって言うのに、この時代の国王様は本当に度し難い」 軍事大国メビウス、ここはそんな軍事産業にばかり特化した焦臭い国の王都でして、先程からどこを見ても必ず視界に入ってしまう城壁とは、つまりこの巨大な王城の一部と言うわけです。 巨大な城壁に囲まれた王城と、それを守る為に配備された兵士の多さには、事情を知らない人が見たら戦時中ではないかと勘違いしてしまう程だ。 それだけ大勢の兵士がこの城に配備されているのだから、今この国を取り巻く混乱も含めて、それこそ国民達は気が気じゃないでしょうね。 ちなみに、あの王城へと入る道は俺の記憶が正しければひとつしかなく、他の場所は尽ことごとくあの用水路と高い城壁によって阻まれていた筈だ。 城への献上品や人員の運搬に使われる唯一の交通手段にして、その出入口とも言える場所は遠くからでもハッキリとわかる程で、綺麗なアーチ形の石橋は正に王城の玄関に相応しいだろう。 今までの疲れが嘘のように足取りが軽く、その見違えるような軽さには少なからず驚いてしまった。まるで、羽でも生えたかのような軽快な足取りは、ここまで辿り着けた感動から来るものだろう。
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