一人の軍勢

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「……!」 「なっ……え?」 だが、そんな上機嫌な俺を奈落の底へと突き落とす視線と悲鳴の数々は―――――さすがに、いくら温厚な俺と言えども少なからず動揺してしまった。 だって、俺とすれ違った人のほとんどが突然走り出したり悲鳴をあげたりと、まるで悪魔にでも出会ったかのような酷い態度だったからさ。 なんで彼等、彼女達が俺から逃げるのか、その心当たりがない俺としては罵声のひとつでも浴びせてやりたかったよ。 まあ、その答えを俺が知ったのは数秒後の事だったけど――――― ごめんなさい。確かに……いや、むしろ数え切れないほどの心当たりがありました。 「あっ……これって、俺じゃないか?」 その綺麗な石橋に足を踏み入れたと同時に、その答えが―――――文字通り、風がその答えを俺の元まで届けてくれたのさ。 用水路から流れる出る風が一枚の紙切れを運んで、俺の足にまとわりついて中々離れないそれを掴めば、そこには毎日鏡の前で拝んでいる顔がプリントされていたわけだ。 もう少しカッコいい写真はなかったのかと思いながら、この紙を見ただけでも如何(いか)に俺が人気者であるかわかるだろう。 赤く書かれたDead or Aliveの文字に、思わず涙がこぼれてしまったのは、思わずそれを破り捨ててしまうほど嬉しかったからさ。 この時代の国王様も含めて、歴代の王族達はいつも躍起になって俺の事を探していたようだけど、誰に対して懸賞金をかけているのか説教したいくらいだよ。 顔写真の下に大きく書かれた金額は、それだけで一生遊んで暮らせるほどの金銭で、その額を見ただけでも俺がどれだけ嫌われているのかが想像出来るね。 うぉんてっど?おいおい、こんなにも優しくて高貴である俺に対して、これ以上なにを求めると言うのか御聞きしたいものだね。あれか?あそこにアレを射れて、あれしてアレするつもりなのか? 「……おぇっぷ、なんか気持ち悪くなってきた」 自分で想像して気持ち悪くなるなんて、それこそ冗談だとしても笑えないわけだよ。そもそも俺は、そっち系の趣味なんてない健全な男性ですからね。 やっと見えて来たこの無駄に大きな玄関を見上げながら、周りの城壁と負けず劣らずの城門を前にして、現国王の趣味だけは少しばかり評価してあげても良いと思ったよ。
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