第3章 スピーチ

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帰りのホームルーム――。スピーチの時間がやってきた。 心臓がバクバク言っている。手には汗がにじみ、 小刻みな体の震えが止まらない。 「日直の野山、1分間スピーチよろしく」 担任の先生に言われ、私は教壇の上に立った。 一番前の席に座っている明美が、小さな声で「頑張れ」と言った。 私は明美に向かって小さく頷いた。 「じゃあ、スタート」 私はゆっくりとメガネを外した。 「私のた、宝物はこのメガネです」 そう言って、外したメガネを掲げながら、みんなに見せた。 今回のスピーチのテーマが「私の宝物」で助かった。 このメガネが宝物だったら、自然にメガネを外せる。 みんなにこの宝物を見てもらうために。 そしてこのメガネは宝物に間違いなかった。 裸眼だと視力は極端に悪い。みんなの顔はぼやけて見える。 誰が誰だか、どんな顔をして聞いているのかも、はっきりしない。 お酒を飲んだことがないから分からないけど、 酔っぱらった感覚に似ているのかもしれない。 目が見えないとまるで別世界で、少しだけ大胆になれる。 緊張はなかった。 あとは、事前に考えたスピーチ の内容を つっかえないようにゆっくりと言うだけだった。
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