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帰りのホームルーム――。スピーチの時間がやってきた。
心臓がバクバク言っている。手には汗がにじみ、
小刻みな体の震えが止まらない。
「日直の野山、1分間スピーチよろしく」
担任の先生に言われ、私は教壇の上に立った。
一番前の席に座っている明美が、小さな声で「頑張れ」と言った。
私は明美に向かって小さく頷いた。
「じゃあ、スタート」
私はゆっくりとメガネを外した。
「私のた、宝物はこのメガネです」
そう言って、外したメガネを掲げながら、みんなに見せた。
今回のスピーチのテーマが「私の宝物」で助かった。
このメガネが宝物だったら、自然にメガネを外せる。
みんなにこの宝物を見てもらうために。
そしてこのメガネは宝物に間違いなかった。
裸眼だと視力は極端に悪い。みんなの顔はぼやけて見える。
誰が誰だか、どんな顔をして聞いているのかも、はっきりしない。
お酒を飲んだことがないから分からないけど、
酔っぱらった感覚に似ているのかもしれない。
目が見えないとまるで別世界で、少しだけ大胆になれる。
緊張はなかった。
あとは、事前に考えたスピーチ の内容を
つっかえないようにゆっくりと言うだけだった。
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