第4章 放課後

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「ずいぶんと遅かったなぁ」 職員室に日誌を持っていくと、担任の先生はそう言った。 先生は日誌をパラパラとめくり、 「でも、時間かけたせいか、よく書けているな」と言った。 「すみません、遅くなりまして……」 先生の言う通りだという自覚があった。 今日の日誌には素敵な言葉や表現が溢れていると思うし、 最後に書き込んだ日付には、いつも以上に力が入っていた。 特別な日になったから。 日誌を提出し、校門を出ると藤川君が待っていてくれた。 私たちは散り散りに散った桜並木を、並んで歩いていた。 閑散とした桜並木のように、二人の間にも会話はなかった。 普段は饒舌な藤川君も、恥ずかしそうに、上を向いたりするばかりだった。 間が持たないなぁ――。 私がまたメガネを外そうとすると、藤川君が 「もう緊張しないでしょ、さすがに」と笑った。 それでも私はメガネを外した。 「先が思いやられるよ」と藤川君はため息を漏らした。 「別に緊張しているわけじゃなくて」 「じゃあ、何で? 似合ってるのに」 「今、見えないから」 「え?」 私は藤川君の親指をそっと握った。 「見えないから。ちゃんと連れてってね」 藤川君は何も言わなかった。 何も言わず、ゆっくりと私の手を握り返し、 緑色に剥げた桜並木を照れくさそうに見上げていた。
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