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「ずいぶんと遅かったなぁ」
職員室に日誌を持っていくと、担任の先生はそう言った。
先生は日誌をパラパラとめくり、
「でも、時間かけたせいか、よく書けているな」と言った。
「すみません、遅くなりまして……」
先生の言う通りだという自覚があった。
今日の日誌には素敵な言葉や表現が溢れていると思うし、
最後に書き込んだ日付には、いつも以上に力が入っていた。
特別な日になったから。
日誌を提出し、校門を出ると藤川君が待っていてくれた。
私たちは散り散りに散った桜並木を、並んで歩いていた。
閑散とした桜並木のように、二人の間にも会話はなかった。
普段は饒舌な藤川君も、恥ずかしそうに、上を向いたりするばかりだった。
間が持たないなぁ――。
私がまたメガネを外そうとすると、藤川君が
「もう緊張しないでしょ、さすがに」と笑った。
それでも私はメガネを外した。
「先が思いやられるよ」と藤川君はため息を漏らした。
「別に緊張しているわけじゃなくて」
「じゃあ、何で? 似合ってるのに」
「今、見えないから」
「え?」
私は藤川君の親指をそっと握った。
「見えないから。ちゃんと連れてってね」
藤川君は何も言わなかった。
何も言わず、ゆっくりと私の手を握り返し、
緑色に剥げた桜並木を照れくさそうに見上げていた。
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