第1章 藤川君

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私は慌てた。思わずお店を飛び出したくなった。 同じクラスの藤川君だった。 なぜ藤川君が、こんなところにいるのか。 「おばあちゃんの付き添いなんだよ」 藤川君は店内のイスに座っているおばあちゃんを指さした。 「野山、新しいの作るの?」 「う、うん」 「これなんか、いいんじゃないか?」 藤川君は手に持っていたメガネを、再度私に勧めた。 「あ、ありがとう」 言われるがまま、かけてみる。 心の動揺がおさまらないので、鏡をのぞき込んでも、 似合っているのか、似合っていないのか、正直さっぱりわからない。 「何でも買ってやるって、おばあちゃんに言われてついてきたんだけど、 まずは自分の用事を済ませてからだ、なんてさ。だまされちゃったなぁ」 藤川君はボヤきながらも、次々と私にメガネを渡す。 私は流れ作業のように試着していく。 時折、私の顔をのぞき込む、藤川君の顔が眩しく、 視線を逸らさずにはいられなかった。
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