ロックに生きる、そう語る彼女

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それからの私と彼女の距離は、相変わらずの様子で、まるで先日のことなどなかったかのように振る舞う彼女は遠い存在だった。 遠巻きに、「まさしくこれはロック!」とふざけあう声が聞こえて、少し寂しい。 再び、あの放課後のように教室に残ってみれば彼女にまた会えるだろうか。否、そんな事をしてみたとしても、彼女はきっと多くを語ってくれるような気がしなかった。 やきもきした気持ちに、どうして自分がそんなにも彼女が気になるのか理解できなかった。 墨を落としたように広がっていく、この気持の答えなど出るはずもなく、ただただ、日々が過ぎていき、集団の中で笑う彼女を目で追う。 ――やはり、会うしかないのだ。 そう確信し、私は再び遅くまで教室に残ることを心に決めたのである。 ホームルーム終了後、彼女の姿を見つけるも私はそのまま図書室へ向かう。 きっと、今日も彼女が残っているような気がしたからだ。 午後四時五十分、授業で習った太宰治の作品をなんとなしに手をつけて、頁がそこそこ進んだ頃に文庫本をそっと閉じた。 なんとなくで手に取った割に、面白くなって借りる事にし、改めて図書室を出る。 彼女はまだ残っているだろうか。 否、残っていてほしい、まだ、話してみたい事があるのだ。口下手な私でも、待ってくれているような彼女の空気や雰囲気が心地よかった。きっと、時間としては十分もないような短い時間だっだろう、それでも私にとってこの上なく優しい時間だった。 そう、まるで友人になったような気がしたのだ。 教室の引き戸が僅かに開いていた、そっと覗き見るように隙間に目を通すと、そこにはやはり彼女が机に腰掛け、窓を眺めていた。 白い太ももが、夕日よりも眩しく思わず注視してしまい、気恥ずかしくなって後ずさりすると、バランスを崩して転びそうになって、慌てて足を前に出した。 きゅっと上履きのゴムがワックスを掛けたばかりの廊下に響き、当然のように彼女が振り向いたのが、小さく開かれた引き戸から見えた。 「……村瀬、」 咎めるような彼女の声音が、少し怖くて目を逸らす。 「ごめん、ちょっと声を掛けるタイミング逃しちゃって、それで、」 「いいよ、別に気にしてない、いちいち気にしたらロックな生き方にならないもん」 そのまま手を差し伸べてくれた彼女が嬉しくて喜んでその手を取ると、膝上に揃えられたスカートの、太ももがちらりと目に入る。
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