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ロックに生きる、そう語る彼女
彼女の生き方はまさにロックだった。
「ロックに生きる!」と事あるごとに口にしては、無茶をやらかすきらいがあり、それは今思えば彼女の唯一の声に出した悲鳴だったのだろう。
彼女の周りにはいつも人が集まっていた、何やら楽しげに頭を寄せて話し合ったかと思えば、教師を落とし穴に落下させて大笑いしているような、そんな騒がしい面々の中心。
それが、私にとっての彼女の印象だ。
ある時、ホームルームを終えて閑散とした教室で一人、落日の橙色の帳に身を落とした彼女がやけに寂しそうに見える。
逆光が輪郭を型取り、頬が僅かに日に染まり、薄っすらと開かれた小さな唇、閉じられた双眸が切なく、今にも夕日と共に消え入りそうにすら思って、思わず彼女に手を伸ばした矢先に、白いイヤホンコードが彼女の髪と共に伸びているのに気がつくと、彼女は小さく目を開き、私を認識した。
「何、聞いてるの?」
引き止めるように手を伸ばしたものの、話題が見つからず、ようやく出た一言は存外短いものだった。彼女も薄々それに気がついたのだろう、困ったように笑うその様は、いつもの弾け
んばかりの笑顔とは異なり、今が"素"の姿なのだろうと察した。
「村瀬がこの時間にいるなんて、珍しいね。聞いてみる?」
まともに話すのは初めてだと言うのにも関わらず、名前や素行すら把握されているなんて正直驚いた。
しかし、自分は帰宅部だし、基本的には直帰するのでいないのもなんとなくわかるのだろうと頷く。
言われるままに渡されたイヤホンを左耳に装着、彼女の右側には同じくイヤホンが刺さっている、なんだか一心同体になったような気分になる。
流れてくるのはいわゆる、パンクロック、という部類だろうか。
激しくかき鳴らされるベースとこれまた自己主張の激しいギターのメロディが耳に流れ込む、ああなんて彼女らしいロック。
「これ、あたしが一番気に入ってる曲」
にんまりと彼女は笑った、「私も案外好きかも」と思ってもみないような事を言ってみる、きっと気づかぬ内に気分が高揚しているのだろうと、自覚して少し顔に熱が集まった。
彼女は嬉しそうに「そうでしょ!ロックっていいでしょ!」と早口で捲し立ててはしゃぐ彼女に、先程見た寂しそうな横顔は錯覚だったに違いないと、そう思ってしまったのである。
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