いまだかつてない最弱の安倍

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 剣を持つ者はめまぐるしいスピードで、黒い化け狐の爪を上手くかわしながら斬りかかる。弓を持つ者は暴れ回る黒い化け狐の関節や目を狙い的確に矢を放つ。  そして、木の陰に身を潜める者は複雑な紋様が描かれた札を手に何かを唱えている。両手で略印を結ぶと、札から大量の水が飛び出した。  勢いよく放たれた水塊、濁流は真上から黒い化け狐に襲いかかる。特に何も、合図もしていないのに淡く光る狐達も剣を持つ影の者も、濁流を避けた。  まるで水神の龍のごとく、濁流は黒い化け狐を飲み込み地面に叩きつける。  剣で斬りつけられ、矢を何本も刺され、淡く光る狐達に体中を噛みつかれ引っ掻かれていた黒い化け狐。ドス黒い血のようなものが濁流の中に流れ出ていく。  さらに、ギュッと圧縮された濁流は黒い化け狐の体を締め付け自由を奪う。嫌な音がした。どこかの骨が死んだな。  息もできないだろう。ゴボゴボと痛みに苦しみもがく黒い化け狐の口からは大量の息が吐き出され、溺れさせる。  その様子を「大人しくなってくれたかなぁ?」と背伸びをして覗く男。淡く光る狐を操るこの男こそ、和比呂が言う「安倍様」なのだ。  現代に残る陰陽師の血を引く者達のトップに君臨する安倍家、俗にいう安倍晴明の末裔。安倍晴雅。  水色の狩衣姿、頭には同じ色の烏帽子を乗せ、腰まである長い髪は濃い紺色。やや眠たそうな瞳は美しい黒真珠を彷彿とさせる漆黒。
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