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この世に生まれてから屋敷から出たことがないと言われている彼がいきなり目の前に現れたんだ。そりゃあ驚きもする。が、和比呂にはすぐわかった。
目の前にいる、扇子を手に体を揺らしているのは超高性能な式神だ。
動きしゃべるのはもちろんのこと、五感の全てを感じ式神を操ることもできる、晴雅の分身。本体は自室の、きっと布団の上だな。
「……あぁ、夜が明ける。あの暴れん坊は私様が預かって、しばらく飼ってみることにしたから。秋月の和君も、今日はうちに来て傷を癒しなさいね?」
「飼うっ!?い、いや、孤吉は俺の友達で……」
夜が終わり、朝がやってきた。あたりが明るくなり、ずっと濁流に押し付けられていた黒い化け狐は急激にもがき苦しみだす。
大きな体からは黒いモヤのようなものが、水が蒸発するように抜けていきどんどん体が小さくなっていく。
やがて、朝日が顔を見せると黒い化け狐は傷だらけのキツネの姿に戻った。人間の姿ではなく、本来の白いキツネ。
晴雅が軽く手を上げると術者が濁流を止め、淡く光る狐達が消え、剣と弓を持つ影の者が下がった。
ずぶ濡れのキツネは意識を失っていてピクリとも動かない。歩み寄った晴雅が袖から、頑丈そうな鉄のかごを取り出した。
それにしても藪から棒に「飼ってみるから」って、まるで道端で拾った子犬みたいに。ならさしずめ、和比呂は晴雅の母親か?
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