絶望に奪われた光

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 惰眠童子もとい橘時久が不和歌磨呂に会いに行ったあと、キツネは彼の家で主の帰りを待っていた。  しかしいつまでたっても戻ってこない。この時のキツネには、惰眠童子が何のために歌磨呂に会いに行ったのかはわからなかった。  わからないなりに、惰眠童子が何か特別強い想いを抱いているのだと悟り送り出した。  帰ってきたら根掘り葉掘り聞いてやろうと、一緒に留守番をするヤモリとおしゃべりをしながら待っていたのに。  夜が明けて、また夜になって。留守番を初めて4回目の太陽が沈んだある日。日が落ちてから雨が降った。濡れた地面を踏みしめる音が近づいてきてキツネは、嬉しそうに戸を開ける。  が、そこにいたのは待ち続けていた惰眠童子ではなく1人の男。番傘をさしているが着物は足元がずぶ濡れ。  何も言わず、悲し気に伏せられていた紫色の瞳が焦りを隠せないキツネの赤い瞳を映す。そして、自分が不和歌磨呂であり酒呑童子だと名乗る。同時に彼は、惰眠童子は死んだと告げた。  当然、はいそうですかと受け入れられるはずもなく。大混乱を起こすキツネの手を引いて家の中に入った歌磨呂は、キツネが何も言わないのを良いことに本来の歌磨呂が惰眠童子と出会った時のことから順を追って語った。  大昔、酒呑童子と惰眠童子が交わした終わらない約束のことも。いつか必ずどこかで、生まれ変わってくる惰眠童子を探すと酒呑童子は拳を握り締める。
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