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なにせ安倍家と言えど、晴雅には少し、いやかなり問題がある。先代の安倍家当主の1人息子として家を継いだのはいいが、陰陽師としての才がない。
歴代の安倍家の中でも最弱と言われるほどの、なんとも頼りない助っ人。
だから彼はこうして、適材適所の「優秀な下僕」もとい影の者をそばに置いている。自分にはせいぜい、式神の狐を出すくらいしかできないのだから。
「秋月、安倍様はアレで狐については誰よりもお詳しい。何か良い策を考えてくださると信じよう。お前はまず、療養だ」
龍の濁流を操っていた術者が和比呂の前にしゃがみ、背を向ける。安倍の屋敷まで負ぶってやるということか。
「すみません。俺が意地なんか張らずに、最初から安倍様を頼っていればこんなことにはならなかったのに。情けないです」
「ひとまずは済んだこと。あの妖孤のそばにいたいなら安倍様にかけ合っても良いし、子供が生まれるのなら妖孤を安倍様に預け妻の元へ戻るのも良い。明日中に決めるんだな」
「はい、ありがとうございます……」
和比呂は一瞬はたじろいだものの、それだけでフラつき大人しく術者の背中に体を預ける。
疲れた。身も心も。だから術者が立ち上がり、歩き出してすぐに彼は眠りに落ちてしまった。次に目を覚ました時、いつものキツネに会えたらいいな。デカい体で、でっかい声でギャンギャン騒ぐうるさいくらい元気なキツネに。
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