いまだかつてない最弱の安倍

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 晴雅め、キツネの質問に答える気はないらしい。様子を見て今は大丈夫だと判断したのか、鉄かごのカギを外して白い狐をそっと出してやった。  昼間は普通のキツネなのだ。日付が変わるくらい、深夜になるとあの白い化け狐に変身し自我も記憶もなくして暴れ回る。  ケガの処置はあらかた晴雅が施している。彼の手が離れた途端に部屋の隅に逃げ人間の姿になったキツネは、自分の体の具合を見て首をひねる。  そして晴雅に目を向け、今度は「陰陽師?」と問う。  ニコッと笑った。烏帽子はもうつけていないが、昨晩と同じ水色の狩衣姿の晴雅は起き上がるとキツネの目の前に座り、顎をつかんだ。 「私様は安倍晴雅。コンコンを助けてあげるよ。ヒトを食らって完全に堕ちてしまう前に、元の君に戻してあげる」  晴雅はそのまま、昨晩のことや今までの白い化け狐の話を全て話した。これが現実だと。  昨晩和比呂と会ったことも、危うく食らって殺すところだったことも全く覚えていないキツネ。やや浅黒い顔は青ざめ、ガタガタ震えながら絞り出した声は「嘘じゃ……」と消えた。 「嘘なんかじゃないよ。コンコンがどうして夜中に豹変するのか、理由は何となくわかるし。改善方法も、これは試してみないとわからないけどなんとなくは。信じられないなら今の、秋月の和君に会ってみる?」  あれから、和比呂は安倍の女中と専属の医者に手厚く処置をされ客間で休んでいる。
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