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十五分ほど歩くと、もう彼女の家の前まで来ていた。
「話しながら歩いてると、あっという間だね・・・せっかくだし、もうちょっと喋らない?」
そのまま近くの公園へ場所を移し、お互いにブランコに座った。辺りはもうすっかり暗くなっており、人の気配はなかった。
そこからしばらく、また当たり障りのない話をしていた。彼女がそれを望んでいた気がしたから、僕もそのような話をした。
二十分も喋ったところで、急に彼女が押し黙った。僕も合わせて、口を噤んだ。
しばらくは、夜空を見上げていたが、視界の端に映る彼女はうつむいたままだった。ふと彼女を見ると、ぽろぽろと大粒の涙を零しており、唖然とした。何かいけないことを言ってしまったか、と問うと、彼女は首を横に振った。
「ごめんね、メガネくんのせいじゃないの」
彼女は涙を拭うと、笑って見せた。だけど、その笑顔は歪んでいた。さっきまでの楽しそうな笑顔が、まるで嘘のよう。
「私ね、振られちゃったんだ」
今にも泣き出しそうな顔をしながら、彼女はぽつりぽつりと喋りだした。
入学したときから好きだった人がいたこと。今日、終業式が終わった後に思いを告げたこと。そして振られたこと。そんな日に、偶然知ってる顔を見たから話しかけてみた。気が紛れると思ったそうだ。
「私、中学の卒業式の日に、告白されたの。それは断ったんだけど、その後なんとなく言い逃げされたみたいで嫌だったのよ、だから」
だから、これ最後のチャンスだった。最後まで言わなかった彼女の言葉は、そう言ってる気がした。
それから間も置かずに、彼女は立ち上がった。
「遅くまでつき合わせちゃってごめんね。話しを聞いてくれてありがとう」
彼女の目に、もう涙はなかった。
ばいばい、と手を振り家の中へと入っていく彼女を見送ると、僕は再び歩き出した。ほんの二三分歩けば、家に着く。
そんなときだった、ふと眼鏡に何かがついた。眼鏡を外そうとしたとき、それが雪だということにようやく気づいた。鼻を赤くしてしゃべっていた彼女の顔を思い出して、「通りで寒いわけだ」と独りごちったのだった。
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