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あれは年の暮れ。終業式が終わり、家に帰ろうとしていたときの話しだ。
「メーガネくん」
改札を出たあたりで、後ろから声をかけられた。振り向くと、中学生のときに同じクラスの女子が立っていた。名はなんといったか、綺麗な名前だったのは覚えている。
メガネくん、とは中学生時のあだ名である。眼鏡をかけている生徒は大勢いたが、運が良かったのか悪かったのか、その中で僕だけがこのあだ名を授かった。
「今帰り?」
僕は小さく頷くと、彼女が横に並んだ。
彼女のことはよく知らない。仲がよかったわけでもないし、喋ったことも数える程度しかない。
「卒業式以来だから二年半ぶりくらいかな。高校はどう? 楽しい?」
駅から出ると、当たり障りのない会話をして歩いた。彼女は人懐っこく、ちょっとしたことでくすくすと笑っていた。
そういえば、中学生の頃もこうだった気がする。何を話したかは覚えていないけれど、その楽しそうな笑い方を覚えている。本当に楽しそうに笑うから、こちちまで楽しい気分にさせられる。
「あははは、メガネくん面白い。中学校のときにもっと喋っておけばよかった」
彼女はそう言ったが、きっとそれは叶わなかっただろう。クラスの人気者だった彼女に話しかけられたら、きっと緊張でまともに喋れなかったに違いない。二年半という時間は、僕をきちんと成長させていた。
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