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こうして晴れて付き合う事となった俺達だが。
「やっぱりメガネにひっつめは続けるんだ」
「急にイメチェンってのもなんか変でしょ? 私もメガネに慣れてたし。でももうあのメガネは掛けないって、母とそう約束したの」
「ふーん……」
俺としてもその方が有り難い。
彼女の素の姿は自分だけのものにしておきたいから。
藤原もあれから何も触れて来ない。
日が経つと共に、男性社員の彼女への興味も薄れつつある。
それにしても気になる事がひとつ。
彼女の母親は亡くなったと聞いていた筈なのだが……
(何回か母と相談したとか、話したとかって言ってた気がしたけど。父親の再婚相手とかかな?)
そんな事を考えながら、ふと自分の業務机の上を見た。
「これ……何で俺の所に?」
何故か彼女の母親の遺品であるメガネがそこにある。
俺は不思議に思いながらも何気にその眼鏡を掛けてみた。
『あんた分かってる? 私の娘を泣かせたらただじゃおかないからね!』
「はい!?」
突如聞こえて来た女性の声が、キンキンと頭の中に響き渡る。
『それだけ言っておこうと思ったの。じゃあ、あの子の事よろしくね』
明らかに眼鏡からしたであろう彼女に似たその声に、俺はしゃんと背筋を伸ばした。
「はっ、肝に銘じます……!」
反射的にそう返答した俺は、まるで電話の受話器を置くかのようにして外した眼鏡をそっと元の場所へと戻すのだった。
~終~
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