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着いた先は冬の風が吹き荒ぶ会社の屋上。
「おいおい、なんだってこんな寒い所に……」
藤原がそう文句を言おうとすると、菊川さんはくるりと振り向きざまにひっつめ髪を解いて、そのメガネを外した。
それはさながらどこかのCMのようで、俺は思わず心の中で「うおお、カッコイイ!」と叫んでいた。
それを実際に声に出していたのは藤原。
「マジヤバい! カッコイイ上に超カワイイじゃん! ねえ、俺と付き合おうよ!」
「い……!」
いきなり何を言い出すんだと言い掛けたが、考えてみれば俺も同じ穴の狢。他人の事を言えた義理ではない。
俺だって、つい昨日菊川さんに一目惚れして告ったクチだ。
俺はそのまま何も言えずに押し黙った。
「藤原くんてモテるのよね。何人も彼女がいるって、社内の女の子がみんな話してる。でも、私みたいなツンツン女は嫌いなんでしょう?」
どうやら菊川さんは俺達の話もどこかで聞いていたようだ。
「んなの関係ないって、性格なんて二の次だから。ねえ、どう? 付き合ってくれる? なんだったら他の女は全部振るからさ。あんたにはそれだけの価値があるよ」
他の男からすると「何だとこのリア充が!」とブーイングが飛び交う所だ。
「それはどうも。じゃあ今から私の答えを返すわね」
菊川さんは俺達の前へと一歩あゆみ出て来た。
そして迷いなく伸ばされたその華奢な手が、俺の頭をグイッと引き寄せた。
「っ!?」
言葉を発する間もなく、唇を塞がれる。
何とも強引なキスに、俺も、隣で見ていた藤原も呆気に取られた。
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