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「これが返事。私、和久井くんと付き合うから」
「えーと……何? 何がどうなってんの?」
藤原は何が何だか分かっていない。勿論俺も。
「あ、いや……俺も昨日菊川さんに告ってたから……その返事?」
「は? お前が先? んだよぉ、だったら最初から言えよ! 俺バカみてぇ」
「ご、ごめん」
藤原は呆れたように俺を一瞥すると、ひらひら手を振りながら「もう帰るわ」と一人屋上の階段を降りて行った。
俺がコイツと連んでる理由はこれ。藤原はこういう奴。
チャラいけれど、こざっぱりとしている。
「はは、こんな返事の仕方されるとは思わなかったから驚いた……て、あれ?」
見ると、目の前にいた筈の菊川さんはぺたんと床にへたり込んでいた。
「き、菊川さん?」
「あ、あの、私……ちゃんと出来てた? メガネがなくても」
「メガネ……え? もしかしてさっきのって……演技!?」
こくん、と菊川さんは頷いた。
「昨日母と話したの。もうメガネに頼るのはやめようって。だから、思い切って自分を試してみたの」
「試すって、随分と思い切りのいい……じゃあ、俺と付き合ってくれるってのは」
「それは……本当。昨日一晩考えて、あなたの前でだけはおどおどしててもいいのかなって、そう思えたから」
その言葉に俺の気持ちは一気に最高潮へと達した。
「うん。どっちの君も好きだけど、俺の前では本当の自分でいて欲しいな」
彼女は安心したようにふわりとした笑顔で頷いた。
その笑顔に惹き付けられて、今度は俺の方から彼女へと唇を寄せた。
「そう言えば、さっきのってもしかしてファーストキスだったんじゃないの?」
「あ……! も、もう必死で何も考えてなかった……」
いつもキリリとしているキャリアウーマンの本当の顔は、やっぱり可愛い小動物だった。
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