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あまりに間抜けた声が出る。いや、それよりも。
「錦田。今……喋った?」
「……」
コクンと首を縦に振る錦田。そのまま口を開く。
「……へん?」
「い、いや変じゃない!ただ……驚いた。てっきり話したりするのが苦手かと」
「少し……苦手。でも……美穂の好きな人なら……声出してもいいかなって……」
錦田が空気を震わせて奏でる声は、今まで聞いたどの声よりも透き通っていた。
「……小学生の時に、声変って……からかわれた。だから……今まで話せなかった。……ごめんね」
「いや、お前が謝ることじゃないだろ、それ。謝るなら、そのからかった奴らだ」
「…………」
錦田が驚いた表情をする。
「それと、だな。お前の声、全然変じゃないぞ。むしろ……すっごい可愛らしい。啓とかなら、天使って表現するかもな」
「……ふふっ」
小さく、笑い声が聞こえた。その声の主ーー錦田は俺に笑いかけた。初めて見る笑顔だった。
「……言われた。啓に。……天使みたいって。……変じゃないって、言ってくれた……」
「啓とも話したのか?」
コクンと頷く錦田。続けて、その美声で言葉を紡ぐ。
「啓も……からかった人たちが悪いって言ってた。……啓と雅文、おんなじ」
「それは激しくイヤだな」
「ーーっっ!」
どうやらツボに入ったらしく、錦田が声を出さないようにお腹を抱えて笑う。そんなに面白い事を言ったつもりはないんだが……。
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