放課後のひととき

14/20
前へ
/436ページ
次へ
あまりに間抜けた声が出る。いや、それよりも。 「錦田。今……喋った?」 「……」 コクンと首を縦に振る錦田。そのまま口を開く。 「……へん?」 「い、いや変じゃない!ただ……驚いた。てっきり話したりするのが苦手かと」 「少し……苦手。でも……美穂の好きな人なら……声出してもいいかなって……」 錦田が空気を震わせて奏でる声は、今まで聞いたどの声よりも透き通っていた。 「……小学生の時に、声変って……からかわれた。だから……今まで話せなかった。……ごめんね」 「いや、お前が謝ることじゃないだろ、それ。謝るなら、そのからかった奴らだ」 「…………」 錦田が驚いた表情をする。 「それと、だな。お前の声、全然変じゃないぞ。むしろ……すっごい可愛らしい。啓とかなら、天使って表現するかもな」 「……ふふっ」 小さく、笑い声が聞こえた。その声の主ーー錦田は俺に笑いかけた。初めて見る笑顔だった。 「……言われた。啓に。……天使みたいって。……変じゃないって、言ってくれた……」 「啓とも話したのか?」 コクンと頷く錦田。続けて、その美声で言葉を紡ぐ。 「啓も……からかった人たちが悪いって言ってた。……啓と雅文、おんなじ」 「それは激しくイヤだな」 「ーーっっ!」 どうやらツボに入ったらしく、錦田が声を出さないようにお腹を抱えて笑う。そんなに面白い事を言ったつもりはないんだが……。
/436ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加