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「いやー、楽しかったな!」
背伸びをしながら、後ろを歩く俺たちに話しかける紫紅美。
「ああ。イタい勘違いがあったが、それを除けばまあ楽しかったな」
「むぅー。悪かったのだ。そんなに怒らないでくれ」
「ん?ああ悪い悪い。別に怒ってる訳じゃないんだ。なんつーか、こう……思い出してな」
奇しくも、公衆の面前で告白された場所に戻ってきていた。いやまあ、入口付近だし、今から帰るから通るのは必然なんだが。
「恋愛というものは、必然と人を恥ずからしめるものさ。女性の恥ずらいは非常に眼福ものだが……ふぅ」
俺を見て、肩をすくめる啓。男が恥ずらって悪かったなこの野郎。
「寒菜も楽しかったか?」
紫紅美の問いに、学校ではまずお目にかかれない笑顔で、寒菜は答える。
「うん……!雅文も啓も、とってもいい人……!仲良くなれた……!」
「そうか。だが寒菜、気を付けろ。お前の目に桐生がどう映ってるかは分からないが、ヤツは危険人物だからな?」
後ろ指で啓を差す紫紅美。
「……優しい人、だよ……?」
「目を覚ませ、寒菜。いいか、ああいう奴には極力関わらずに生活を、平凡な暮らしをするんだ。でないと、一生を棒に振る事になってしまう」
「女性というものは素晴らしい。一生を棒に振って、愛し愛される事のできる人は一人だけ。あゝ、なんと無情な世の中」
「お前は少し黙れ」
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