いち

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 曇り空が広がるある日。  少女はいつものように鳥のさえずりで目を覚ましました。  朝が来たことを知った彼女はぼんやりとしながら窓を開け、朝の体操代わりにピーチクピーチクという声を魔法で探知し、対象に向かって小さな雷光を飛ばします。  さえずりは遮られ、ばたばたという羽ばたきと枝が揺れる音が響きます。そして、チキチキと地面から鳥の声が聞こえるようになりました。おかげで彼女の頭は少しだけすっきりしたようです。  と、近所の住人である老人が通りがかりました。  その人物はチラリと彼女に目を向けてから地面に落ちたそれを拾い上げ、去って行きました。こんなことを咎めるような人間は、この汚らしい村には存在しないようです。  そして彼女は窓を閉め、洗顔からはじまる身支度を終えました。家には喜ばしいことに今のところ誰もいないようです。  なので彼女は部屋に戻っては少し楽しげに自分だけの朝食を摂り、これにて朝の習慣を終えました。  それから、彼女は何をしようか悩みます。 (……あぁ、本、返さなきゃ)  よいしょと立ち上がり、本棚から何冊かの本を手にします。  続けて魔法で「空間」を生み出し、そこへ持っていた本を放り込み、玄関口へと向かうことにしました。  この家の主たちが転がしていた空のお酒のビンにつまづきそうになりましたが、どうにか持ちこたえます。なので、彼女は自分の得意とする魔法で一欠片も残さずに粉砕しました。  誰もいない家から外に出れば、雲の間からわずかに漏れる光が穏やかに少女を照らします。  新緑の美しい季節、光に触れるだけでも心が浮き立つというものです。  ですが、少女は実につまらなさそうな顔をしています。
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