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(……変な本)
陰気で暗い場所でもわかるくらいに、それは不思議な雰囲気をかもし出しているのです。
見たことのない文字が書かれた黒い背表紙に惹かれたリースは、手に取ってみることにしました。
その時。
「何やってんの?」
突然後ろの方から女の人の声が掛かりました。
「えっ! あっ、そっ、その」
いきなり声を掛けられたリースはしどろもどろ。
思わず彼女は持っていた本を反射的に魔法を使って隠してしまいました。
「ここに立入禁止って書いてあるでしょ。あんたは図書館に来るぐらいだから字は読めるよね。それなのにここに入るってどういう了見なの」
まくしたてる職員と思わしき女性のおかげで、リースはだんだん具合が悪くなってきました。
彼女の背中に翼はありません。普通の人間かもしれませんが、有翼人種である可能性もあります。
有翼人種はおよそ大人になると翼は取れてしまいます。そして、魔法も使えなくなります。
言葉責め、ではなく非難やら愚痴やらを受け続けるリースの心拍数は上がり、とうとう吐き気ももよおしてきました。
そんなとき、リースは頭の中で想像するのです。
この場で自分が相手を消し炭にする、という想像を。
「何、なんか文句でもあんの」
まだまだねちっこく問い詰め続ける女性。
ようやく平静な心を取り戻したリースは早くこの場が収まることを願うのみです。
「……まぁいいわ。次は気をつけなさいよ」
女性は先ほど辛辣な言葉を述べまくっていた時とは打って変わり、泣いたりでもされたら面倒だと判断したのかさっさとリースを解放しました。誰でも入れるような状態にしていた方にも多少は非があるかと思われますが、彼女はそれについては言及しません。
「……ごめんなさい」
「さっさと消えなさい」
リースは急いでその場を離れます。
職員は中を確認することもなく、扉を締めました。
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