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工場長室に着くと「いっくん」をベットに寝かせ工場長は優しく微笑み頭を撫でた。眉間にシワを寄せていた顔が穏やかになると【おばちゃんが「いっくん来ないからサービスはなし!」と嘆いてはサービスをしなくなったよ。はやく戻っておいで、「いっくん」】苦笑混じりで工場長は言いながら仮面を外した。
≪電話だよ工場長!≫と二回なると工場長は電話に出た。その相手は【あるばいと】を紹介した社長からだった。
【やぁ、どうしたんだい?】
『彼はどうだい?』
挨拶もなく話題が始まる。
【ん?一番くんのことか?】
『他に何を聞けと言う?工場長?』
苦笑混じりで返す社長の声は優しかった。
【そうだね、一番くんは人の温もりを避けている。若干の変化は最近見られたが、私とも関わらないように内線すら出てくれない。いじわるくんになっているね、悲しいよ本当に…】工場長は哀愁漂う声をもらした。
『それなら私も憎み始めてもいい頃合いだと思うよ。私は憎まれてもいいのだか、彼には思い出してほしいことがあるんだ。目的のためなら私は敵になっても構わないからね』弱々しい声で社長が呟くと
【それは私に未だに話してくれないのは何故だ?】工場長の声が悲しく響いた。社長の返事を待つ間、アナログの時計の音だけが響いた。
『すまない、今は言えないんだ。彼の【あるばいと】が終わればわかるから、それまで見守って欲しい。頼む工場長』
きっと社長は誰の居ない場所で頭を下げているに違いない、そう思っていた。【わかった、最後まで見守っていくよ。彼は今は「一番くん」ではなく「いっくん」と呼ばれているんだ。次は「いっくん」と呼んでくれ】工場長明るい声で社長に言った。
わかったよ、と返事を聞いてから電話が切れた。
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