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翌日も仕事なのに、シャワーや夕食も忘れ徹夜で読破してしまった。
付き合っていた頃より文章が上手になり表現の幅も広がっていた。技術的なことは漠然としか分からなかったけど、やっぱり彼の小説は面白い。
……と、批評みたいなことを心でやってしまうのは、彼のまっすぐな想いに少なからず動揺しているからだ。物語に込められた彼の本音を消化するための時間がもう少しほしい。
思うように会えなかったあの頃、彼がどれだけ私を想ってくれていたか。私と別れた後、彼がどれだけ悲しんでいたのか。
《会えなくても想いはつながっている、だなんて、僕の慢心だった。会えなくて寂しいのは彼女も同じなのだと早く気付くべきだった。
こうして夢を叶えられたのは彼女との日々が栄養になったからなのに。彼女との時間が僕を作った。どうしたらこの気持ちを再び届けられるだろう。すでにそんな資格はないと、頭では理解しているのだけれど。》
彼の想いの行く先が知りたい。ただそれだけの気持ちで彼に電話をかけた。ずっと消せずにいた連絡先。小刻みに手が震える。話す言葉も思いつかないうちに彼は電話に出た。
『……』
今さらだけど、彼は私の連絡先を残しているだろうか。削除していたら私だと分かってもらえない。どうしよう。
ためらうような沈黙の後、
『驚いた。君から電話をくれるなんて思わなかったから』
「だって、最後に会った時言ったじゃん。またねって」
(完)
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