オフィスを離れて、少しだけ

5/7
前へ
/181ページ
次へ
職員が全員そろい、人数確認が済んで、バスはゆっくりと発車した。 「観念しろ菅谷。たまには俺の言う事聞け。」 「信じられない…。」 愛美は膨れっ面で窓の方を向いた。 (これ、一体なんなの…?) 職員たちは、一番後ろの席の二人の事など気にも留めていない様子で、お菓子を食べたりおしゃべりをしたり、楽しそうにはしゃいでいる。 愛美が窓の外を眺めているうちに、さっきまで同じ一番後ろの座席で、緒川支部長の向こうに座っていた竹山さんと赤木さん、その前の座席に座っていたみんなも、前の方の座席に移ってしまったようだ。 気のせいか、おしゃべりに夢中なオバサマたちが前の方の席に固まっていて、後ろの方に座っているのは自分たちだけのような気がした。 (何か美味しいお菓子でも食べてるのかも。ちょっと静かでいいか。って言うか…わざわざ席を変わらなくても、いっぱい空いてたんじゃないの?) 緒川支部長と愛美を一番後ろの席で二人きりにさせたのは、実はオバサマたちの緒川支部長に対するお節介だ。 “この旅行で緒川支部長が、片想いの菅谷さんに少しでも近付けるように”というのが狙いらしい。 二人が付き合っている事を知っている峰岸主管と高瀬FPも、素知らぬ顔でその話に乗った。 もちろん、緒川支部長と愛美の二人はまったく気付いていない。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2453人が本棚に入れています
本棚に追加