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緒川支部長の顔をした“政弘さん”は、愛美の手を、ギュッと握った。
そして、愛美の耳元で囁く。
「愛美、今だけ、二人っきりになろ。」
「……ちょっとだけですよ…。」
赤い顔をした愛美が小声で答えると、“政弘さん”はもう一度唇に軽く触れるだけのキスをして、愛美の耳元に唇を寄せた。
「キスの続きは、旅行から帰って二人っきりになってから、ね。」
「……当然です。」
二人は小さく笑い合って、そっぽを向いた。
“政弘さん”がギュッと手を握ると、愛美もギュッと握り返した。
指先に感じる温もりが心地いい。
(今だけ。……もう少しだけ。)
愛美はそっぽを向いたまま、繋いだ手に指をそっと絡めた。
“政弘さん”は指を絡めて繋いだ愛美の手を、もう一度ギュッと握った。
いつものオフィスを離れた今日は、二人とも自分に甘いかも知れない。
上司と部下のふりをして、いつもは保っているその距離を縮めて、恋人に戻った。
誰も見ていない今だけ、ほんの少しだけ。
月曜の朝、オフィスではまた、いつも通り。
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