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夕方になり、頑張った甲斐あって入力作業も残りわずかとなった。
(よし、あと少し!さすが私!!)
愛美が余裕を持って定時に上がれるペースで仕事を進められたとホッと胸を撫で下ろした時、長身の男性が支部に戻ってきた。
緒川政弘(オガワ マサヒロ)、3週間前に33歳になったばかり。
社内でも評判のイケメン、異例の若さで出世したエリートで、愛美が所属する川南(かわなみ)第二支部の支部長を務めている。
おまけに独身で、多くの女性職員が、その俺様ぶりにときめくと言う。
しかし愛美は“俺様”タイプが大嫌いで、緒川支部長の事も大嫌いだ。
「ただいま。」
「お帰りなさい、お疲れ様です。」
営業職員のオバサマたちがにこやかに緒川支部長の帰りを出迎えた。
緒川支部長は内勤席でひたすらキーボードを叩いている愛美の横に立った。
「ただいま。」
「お帰りなさい、お疲れ様です。」
愛美がパソコン画面から視線を移す事なくキーボードを叩きながら無愛想にそう言うと、緒川支部長は愛美のデスクの上にバサッといくつもの封筒を置いた。
(え…?)
愛美は驚き、目を丸くして緒川支部長を見上げた。
「これ今月分に間に合うようによろしく。」
封筒の中身を確かめて、その数を数えた。
(え…えーっ、こんなに?!)
思わず時計を見る。
締め切りまで残り1時間。
どう考えても間に合う量じゃない。
「菅谷ならもちろん出来るよな?」
ニコリともせず挑発的な態度を取る緒川支部長を、愛美は歯を食いしばって睨み付ける。
「当・然・です!」
いつもの事ながら緒川支部長は、無愛想に大量の急ぎ仕事を愛美に押し付けて涼しい顔をしている。
(ああもう!!あの俺様男マジでムカつく!!意地でも終わらせてやる!!)
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