死体の消失と、事件現場への再訪

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死体の消失と、事件現場への再訪

 その場所は貧民窟のさらに奥、周囲の粗末な建物とは対照的な重々しい鉄扉の向こうにありました。  警察管理の死体安置所、そう言われればまだ聞こえがいいのですが、実際は引き取り手のいない死体の最後の吹き溜まりで、施設には何とも言えない重苦しい雰囲気が漂っていました。  その薄暗い石造りの建物の中を管理人を名乗る男に先導され、半地下となった下りの階段を降りた先に、死体を保管しておく為の暗室はありました。  管理人が持っていたランプに火をともし扉を開けると、中からムッとした臭気が流れ出て警部は思わず口元をハンケチで押さえました。  そして、管理人の男を促し中の棚からその棺と呼ぶのも躊躇われる粗末な木箱を下ろさせると、そっと蓋を外しました。  その瞬間、そこにいた全員が息を飲みました。 「おいっ、これはどういう事かねっ!?」  その中の空っぽなのを見て警部は猛烈な勢いで管理人に食ってかかります。 「さあ、あっしはただここに死体を置いておけと言われているだけなので」  管理人の声には反省や動揺というものが感じられませんでした。そのまま顔色一つ変えずに、警部と問答にならない問答を続けています。しかし、その言葉に嘘を言っているような様子は無く、トミーにはただ本当に興味が無いだけにも見えました。 「ちょっと待って下さい。他の棺と間違えてるだけじゃないのですか?」  トミーにそう言われ、管理人はのっそりと他の棺の中も確認して回りますが、しばらくして首を振り、 「いえ、やっぱりこの箱で間違いないです」  そう感情のこもらない声で答えました。 「くそっ、何なんだこれは」  警部は悪態をつくと、表に待たせてある警官を呼びつけすぐに無くなった被害者の遺体を探し出すよう命令しました。  警官は警部に怒鳴りつけられ大急ぎで走って行きます。  どうにかして死体の一部を持ち出そうとしていたトミーも肩透かしを食らう恰好になりましたが、不意に床に落ちている何かを見つけて足元に屈みこみます。 「これは・・・」  トミーはそれを見て近くに救貧院があるのを思い出しました。そしてそこの貧民が遺体から身に着けている物を剥ぎ取る死体漁りをしているという噂も。 「警部、悪いのですが後で私の事務所まで来てくれませんか」 「ん、急にどうしたのかね、トミー君?」 「今すぐ先程の事件の現場に、確かめたい事があるのです」
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