探偵の唐突な訪問と、それに先立つ出会いの回想

3/10
前へ
/30ページ
次へ
「いらっしゃいトミー。あなたからお屋敷を訪ねてくれるなんて、わたしとっても嬉しいわ。お話しなら朝食を一緒にいただきません?コール、準備して」 「はい、かしこまいりました。お嬢様」  扉の向こうから現れたのは、青年の唐突な訪問を感じさせない完璧な衣装に身を包んだ清廉可憐な少女でした。少女は青年の方へ微笑みかけると返事も待たずに彼を屋敷の奥へと促して行きます。 「どうせならお庭を眺めながらお食事にしましょうか?あなたの為にとっておきの食材を準備させておいたのよ。お味の方楽しみにしておいてね」  その言葉に青年はめまいがしました。しかし、少女はそんなことを気に掛ける様子もなくまるで滑るかのように廊下を先へと進んで行きます。  その後ろを必死で追いかける青年がふと後ろを振り返るとそこには付き従えていると思われた執事の姿は無く、見るといつの間に先回りをしたのか廊下のつきあたりで少女の為に扉を開け支えていました。 「ありがとう、コール。中の準備はもう整って?」 「はい、もちろんでございます」 「それじゃあ改めていらっしゃい、トミー。ささやかながらも精一杯のおもてなしをさせて頂くわ」  少女は扉を抜けると振り返って青年に向け夜の社交場には少し幼く感じられるお辞儀をしました。スカートの裾が浮き上がって白いソックスが少しだけのぞきます。  ここで青年は自分が廊下を歩いている間一言も声を発していないことに気づきました。 「あ、あの・・・」 「あら、何かしらトミー?」  青年は決意すると、馬車に揺られている間からずっと喉の奥につかえていたセリフを思い切って口にします。 「ロンドンの街で起こっている連続殺人はアナタが起こしたのではないのですか?」  数秒の沈黙がありました。執事はただ押し黙って下を向き主人の発言を待っているようでした。 「さあ、トミー。アナタはどう思ってらっしゃるの?」  青年を見つめる少女の顔は笑っていました。しかし、それは決して冗談めかしたものでなく嗜虐に満ちた、青年を見下ろすとても歪んだものでありました。  それは青年に思い出させました。 そう、あの殺人事件のあった血塗られた夜を、忘れたくても忘れられそうにもない青年と少女の最初の出会いを・・・
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加