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「おい、何だね。これは・・・」
警部は事件現場に出来た真新しい血痕を見て顔面を蒼白にさせました。
その第四の事件があった路地の上に残されたそれは、先の殺人の跡を覆いつくすかの様にまだ真赤な触手を四方に広く伸ばしていました。
その今までの切り裂きジャックによると思われた事件とは若干印象の異なる乱雑な血の広がりを目の前にして、ハーバー警部はしばし呆然としていましたが、突然何かを思い出した様に路地を奥へと進んで行きます。
「トミー君っ、トミー君はいないのかっ!?」
彼は探偵の名前を叫びましたが閑散とした通りには誰からの返事も無く、警部の声だけが上空の暗がりに吸い込まれていきます。
そして、警部がその触手の一番遠くの端にまで来た時、彼は足元にそれを見つけてしまいました。
それは肘から先で切断された人間の手首で、その骨ばった感じから男性のものと思われました。
「まさか、トミー君の・・・」
警部はそれを見て言葉を失くしましたが、彼の背後ではその様子を冷静に観察していたモリスが警部の通り過ぎた中央の大きな血だまりに近づいて行きます。
少女は闇夜と大量の血液で判りにくいのですがその表面も乾いていない血だまりの中に薄っすらと盛り上がった何かを発見した様でした。
モリスは執事に命じて、その血だまりの中の何かをそっと取り上げさせます。
執事の手袋に載ったそれは、血塗れになった誰かの片耳でした。モリスには形からそれがトミーのものである事がすぐに判りました。
彼女はまるでチョコレートの代わりに血液がコーティングされたお菓子を摘み上げるみたいにそれをコールの手から受け取ると、
「トミー、アナタの心遣いに感謝しますわ」
小さな声でそう呟き、何の躊躇も無く口内に放り込みました。
そして、あの恍惚とした官能の表情を誰にも見えない暗闇の中に見せつけたのです。
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