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軽率だった。
ヤクザの端くれならしっかりと、脱出の算段を立ててから敵組織に潜入するべきだった。まさかこんな少年少女が戦闘の手練れだなどと、誰が思うだろう。少なくとも俺は、たった二人の、しかも片方は女、というガキコンビごときに脱出中拘束されるとは思いもしなかった。
少年の方が俺に言う。
「いやー、うちの組に入ってきたときから怪しい雰囲気のお兄さんだなって思っていたけれど、まさかスパイとはねえ。驚いたよ」
嘲笑うような口調でそんな嘘をいう。初めから気付いていたのだろう。我ながらこんなガキに見破られていたなんて恥ずかしい話だ。
「無駄口は止して。さっさと仕事を片付けましょう」
少女の方は俺との戦闘に満足しなかったのか、はたまた最初からそういう性格なのか、澄んだ声とは裏腹に口調は刺々しかった。
「お兄さーん。うちの組のデータ持ち帰る気だったでしょ?情報は何に記録したのかな?それとも暗記?」
悪いが俺は記憶力が乏しい。データは俺が死ねば本部に渡る算段だ。お前達に出来ることがあるとすれば、俺を無惨なやり方で息の根を止め、見せしめに俺の死骸を俺の組に送りつけることくらいだ。
俺はそうやって少年を挑発した。
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