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ボールはまだ僕の手にあってどうしたらいいのか分からない。此方に歩いてくるアキ君に投げてみる。
「パスッ」
僕の投げたボールは右に大きくずれて驚いたアキ君はかなり手を伸ばし受け取った。
ノーコンなことまでバレてしまい動くことすらしたくない……。
「はい、ドリブル練習してただろ?」
頷きまた僕の手に戻ってきたボールを見つめる。
「腰落としてゆっくりやって。難しく考えないで、足少しだけ開いて。前、見て。そう、少し強く」
ドリブルだけをその場でした。丁寧にボールをつく、毬つきみたいなドリブルが手に吸い付くような跳ねに変わる。
ボールから目を離せなかったのに、アキ君は褒めながら優しく声を掛けるから何故か焦らず顔を前に向けることができた。
視野が広がれば何処へ向かって歩けばいいか分かる。
「歩くならボールが何処に返ってくるか考えて。こら! 進行方向についたらボールが逃げていくだろ」
夢中でアキ君の言葉に従った。ボールが少しだけスムーズに言うことを聞いてくれる。
「上手、上手」
まるで小学生に言うみたいに教えてくれるアキ君の笑顔に僕も自然と笑顔になれた。
「ホント?」
息が上がっても弾む声を押さえられなかった。アキ君を見ていてもドリブルはスムーズにできたから。
「あ、ああ……」
手を止めてじっとアキ君を見つめる。
「なんでどもるの?」
「あ、いや、お前が俺に笑顔向けるとか初めてだったから・・・ビビった・・・かな?」
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