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 ボールの汚れを落とし自室でポンポンとお手玉してみる。  公園での優しい声が耳に残っているのに、嫌みな声が重なる。 「はぁ、気分わるっ……」  ベッドに横になり週刊誌をパラパラ眺め不屈な主人公に自分を重ね溜め息をする。  明日はアキ君に会いませんように・・・  朝から雨が降りどこかベタベタした教室の空気が気持ち悪い。廊下へ出て密集地帯から解放されるために歩くと7組の前になった。それは偶然……。 「まだアキ来ねーの?」 「寝坊だってー」  アキ君がよく一緒にいるお友達の大きな声が余計な情報を僕に与える。  昨晩のご祈祷が叶ったのか今日はアキ君に会わなくてよさそうだ……。  ・・・・・・。  でも一応……、付き合わせてしまったことを、少しでもバスケが楽しいと思えたことを、ありがとうって言うべきかもと思った。だから教室の空気を言い訳に廊下へ出たのにいないのか……。  胸の中の素直な声がぶつかり、やっぱりいなくて良かったって思うようにしようって決めた。 「向遥、また変な顔してるよ。考え事?」  悠紀人が机に漫画を隠しながら読んでいる手を止めて僕を心配する。 「悠紀人の漫画が先生に見つからないことが不思議だったんだよ」  くすって笑ってから小さな声で言う。 「影が薄いからね」  柔らかな髪は日に当たれば茶色く染めているようで座っているだけで目を引く。顔の彫りの深さは眉と目を近づけ鼻は高くハーフっぽい。これで影が薄いなんて本人も本気で思ってはいないだろう。 「はは、今日が雨で、先生が女性で、良かったね。とても影が薄い」 「向遥は笑ってる方がいい」
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