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離れた位置から真っ直ぐにドリブルでリングへ向かう。4歩目で蹴飛ばしてしまい失敗。
「こーよー!! 急いでた用事は終わったのか?」
大声に心臓が跳ねた。
オイル切れのロボットの様にゆっくりぎこちなく振り返るとそこに立つ満面な笑みが僕の顔を真っ赤に染める。
「あ、あの、なんで、ここに?」
笑いを堪えているのに、くくって声が漏れている。でもそれを責めることもできず頭のなかはパニックで逃げ出すこともできない。
「俺の通学路かな? さっきから見てたのに全然気がつかなかったから声掛けた」
声を掛けずに通りすぎてくれたら良いのに、いや僕に気がつかなければよかったのに、何から言えばいいのか頭が働かない。
「ぼ、僕に気づくなよ!」
「いや、下手すぎて目立ち過ぎだから」
思い出したかの様に吹き出し止まらなくなったのかお腹を抱えて笑い出した。
「わ、笑うな!!僕は帰る!」
「悪い悪い、いやー面白かった。って、ちょい待てって!」
涙を拭きながら腕を掴み引き寄せられた。
「な、なんだよ!」
「ほら、一緒にやろ。なっ!」
可笑しそうな馬鹿にした笑い方で言うのかと思った。
なのに驚くほど優しい顔するから怒りが飛んでいった。
俯いたまま小さく頷き向き直る。顔が同じ高さにあるから真っ赤な僕の顔は隠せないし、そこから動揺が伝わりそうで何も言えない。
無言でいることで了承ととったのかアキ君はブレザーを脱ぎ自転車の篭に掛けた。
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