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「きゃあああああああ!」
その悲鳴は、某出版社編集部に響き渡った。午後11時も近い時分のことである。
このとき編集部にいたのは2人。2人は同期で、1人は新見朔人(にいみさくと)と言い、もう1人は板谷守(いたやまもる)と言った。年齢は28になる。
2人のデスクは隣り合っており、2人はこのとき自分のデスクにいた。
「おい、新見」咎める目を隣に向けて、板谷はそう呼びかけた。するとまた、「きゃあああああああ!」
「新見」もう一度、板谷は呼びかけた。先よりも厳しい語調で。けれどまた、「きゃあああああああ!」
「新見! いい加減にしろよ! うるさいんだよ、それ!」と、いよいよ板谷が本気で怒ると、新見はパソコンのキーボードのエンターキーから指を離し、「ごめんごめん」
「何なんだよ、その悲鳴」と、板谷は尋ねる。なお、新見の軽いノリの謝罪では板谷の怒りは完全には解けず、その顔と声にまだ怒りの感情が残っていた。
板谷のその様子に新見は気づいていたが、その割に平静に、いや、あっけらかんと、「荒垣(あらがき)先生からのご依頼。悲鳴の資料を集めておけってさ」と答えた。
「荒垣先生が?」板谷はそう訊き返した。 荒垣先生とは、正しくは荒垣公己(こうき)。新見が担当を務める小説家で、年齢は55。出版業界では、気難しくせっかちということで有名な人物であった。
その荒垣公己の担当に新見がなってから、まだひと月も経っていない。荒垣公己には長く担当を務めていた編集者がいて、その人物が新見の前任者となるわけだが、ひと月前に産休に入り、そのとき担当を新見にバトンタッチしたのである。
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