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彼は、とにかく明朗で話がうまく前向きで、子どものような可愛らしさがあった。
その割に、指先の動き一つからも余裕の溢れる洗練された落ち着きと細やかな計算、経験豊富そうな自信が感じられ、その大人っぽさもまたとても魅力的だった。
ただ、彼は父の同僚で年齢も父に近い。私が感じた大人っぽさは、年相応と言った方が適切だったろう。
勿論判ってはいたが、それを差し引いても、年齢の開きや性別に囚われず私と対等に話してくれることが嬉しく、会話に深みと広がりと弾むような楽しさをもたらしてくれる興味深い男性だと感じられた。
私がオトコという生物を全く知り得なかったことが、そう思わせたのだろうか。
私も幼い頃は、早くから漢詩や漢文に親しんだことで父親に誉れとされ、父の元に訪れる客人に引き合わせれ、会話の相手をさせられたりした。
しかし当然のことながら年長者ばかりであったし、私自身が、相手を異性として意識するような年齢ではなかった。
その後私の結婚適齢期と言えた10年ほどの間、政権争いによる転換の波に飲まれた私の父は無職(無官)だった。
衣食住など婿の一切合切を妻の家が引き受けるこの時代、『大黒柱が無職』というリスキーな家に縁談など来る筈がなかった。
言うまでもなく言いたくもないけれど、私には男心をくすぐる甘美な噂を流す実力もない。つまり、私への興味が自然発生することもどうやら全くなかった。
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