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彼にしても、出逢いはそれ以前であり会話もしたけれど、結婚へと発展したのはお見合いとして話があったからこそだ。
しかもその時、彼は上の空な様子で、私とのことなど成り行き任せといった煮え切らない態度だった。
私との結婚を特に望んでいる訳ではなかったのだろう。
彼なら他に妻子もいて生活も既に他家で礎を築いている。彼の人格や家柄や官位といった好条件は勿論、うちで世話をする必要が全くないという理由で、父が彼に縁談を頼み込んだのだろうことが容易に想像できた。
とはいえ、こんなじいさん相手に内心ときめいていた私には、彼の冷淡とも言える態度は衝撃だった。
私はプライドも高いが負けん気も強い。とにかく一言いってやらなければ気が済まず、彼の帰宅後に早速
「アンタ、その態度は何なのよっ」
と手紙(和歌)で食って掛かった。
しかし、私の責め句に対して彼は謝罪などしなかった。
のらりくらりとかわすような実のない返事を寄越され、その如何にも女の扱いに馴れた軟派で不遜な態度が私には想定外過ぎて、呆然とするしかなかった。
『私の相手としての男性』との初めての強烈な接触(?)は、私にはかなりのカルチャーショックだった。
お前なんか死ねっ! と思いつつも、真面目で頑固で繊細な父とは毛色の違う彼に、私は結局、興味を寄せていた。
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