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Ⅳ
私は既に、同僚の女房(女官)の中でも古参であり、それ以上に年配だ。
指先や口回りは手入れしてもガサガサし、白髪も目立ち始めている。
殿の北の上(正妻)にも
「ババアが年も弁えず人の夫に手を出すんじゃねーよ」
といった釘を刺されるような存在だ。
(真性のばあさんが何言ってんだよ、精々ゴ自愛してろよ。という嫌みな返信は飲み込んだ)
殿だって、私の元へなどそう頻繁に訪れはしない。愛人ではあったが、愛人の一人というだけであり、しかも特別寵愛を受けているとは言えない立場だった。
しかし殿は、数少ないながらもその逢瀬毎に、狂おしいほど私をあれこれと可愛がってくれた。
年若くない私を楽しそうに攻め立て、私の啼き声を影で嗤っているのかなどと自虐する余裕など与えない。
普段取り澄ました私の乱れる姿がおもしろいのだろうかと余計な思考に至る間もなく、私は揺らされ酔わされてしまう。
ただ唯一、殿に溺れ埋め尽くされるその最中、律儀にも毎回、彼の姿だけは私の瞼の裏に鮮やかに映し出されていた。
彼との夜が、こんなにも情熱的だったかと言えばそんなことはない。
ただ、私が彼に最初に宛てた手紙からほとばしっていた噛みつくような気性を、彼はとても面白がっていた。それをからかうような興味の延長に情事の楽しみを見出だしているようなところがあった。
そんな彼の余裕が、殿の余裕に重なるのかもしれない。
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