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 彼との生活は、その始まりも終わりも特記に値する熱情など皆無だった。  それでも、彼の笑顔の可愛らしさも、お調子者な盛り上がり方も、私は好いていた。  彼を、愛していた。私なりに、静かに。  いや。それは愛ではなかったかもしれない。寂しさという不安を埋める駒の一つが、彼だったとも思える。  結婚前、私はこのまま一生一人かもしれない、という思いが常に渦巻いていた。  それはそれで良いんじゃない? という気持ちもあった。趣味に興じ、好きなことを突き詰めるのは楽しかったし、「お姉さま」と慕う友人もいた。気の合う女友達と好きな本の好きなキャラや好きな場面、好きな台詞のことでキャイキャイ騒ぎ、明け方まで漫談したこともある。  私は、『自由サイコーっ!』と脳内で絶叫していた。  その一方で、時々不意に、雨上がりに葉の上で煌めいている雫のように点在していた小さな闇が、突然膨張して私を飲み込むことがあった。  その時私は、私の知らない間もずっと私を狙い定めていた、孤独という名のストーカーじみた存在と対峙させられるのだ。    彼との結婚が(娘の出産も含めて)、そういう狂気めいた袋小路から私を解放してくれたことは、確かだった。  私は間違いなく、そういう意味でとても救われた。  でも、それだけではなかった筈なのだ。
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