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 私が欲しいのは貴方の心だったのか。  それとも、貴方の温もりだったか。  私の身の内で今なお燻る、そんな幼稚な疑問がくすぐったい。  その2つは表裏一体のものだけれど、同時に大きく隔たった全くの別物だ。  私が私の欲するところを理解するにあたって、ここを混同したままに結論へ到達することはないだろう。  ただ、この2つが表裏となってしまっている状況そのものが、彼を受け入れて以降に感じる渇求の根源なのだということは、当然私にも判っていた。  彼が私の元に訪れるその意味を図りきれないほど若年でもなく、勘違いするほどの自信もない。期待するほど愚かでもない。  ……などと言い切るほど物分かりが良い訳ではなかったものの、分別を求められている自覚はあり、また、それを裏切る強さはなく、失望されることを許さない自尊心があった。  そして私は、しかし彼の前で、鬱屈とした堂々巡りな戯れ言で武装しただけの小さな乙女だった。  そしてまた、実のところ、私が女の子になれるその瞬間こそが、私の最たる望みだったのかもしれない。
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