子猫を飼う

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「キャー。助けて」 突然、下から中年女性の悲鳴があがった。 ゆかりは驚いてベランダから体を乗り出し、声がするほうを目で追った。 すると、一階に住んでいるマンションの大家さんの頭の上に子猫が乗っかっている。 見るとシルバータビの小さなアメリカンショートヘアー。 それは我が家の子猫のソラだとすぐに気がついた。 「なんでソラが、大家さんの頭の上に」 と思うと同時に部屋から飛び出した。 ゆかりは学生時代からの恋人川口隆志と結婚し、中目黒の住宅街の3階建ての小さな マンションに住んでいる。 32歳になる。 まだ子供はいない。 仕事は翻訳業。 いつも家で仕事をしているが、時おり寂しさを感じる。 そんなとき友達からもらったのがアメリカンショートヘアー(略してアメショ)の子猫だった。 ゆかりはひと目で気に入った。 大きな目。 ふさふさのシルバータビの毛。 ピンクの大きな肉球。 まるでぬいぐるみのようだった。 友達からもらってから、ふと気がついた。 このマンションで猫を飼っていいのかと。 亭主に相談すると、賃貸契約書を引っ張り出した。 「動物の飼育不可」・・・・・・とはっきり書いてあった。 しかし今更返せない。 というより可愛くて手放せない。 結局大家さんに内緒で飼うことにした。 こんな小さな猫だからバレないだろう・・・と思った。 ソラは、ゆかりが仕事をしているときはいつもゆかりの隣のイスの上で寝ている。 ときどき起きてくるとパソコンの上を歩いて仕事の邪魔をする。 トイレに行って帰ってくると見たことない文字の羅列がパソコン上に躍っていることもある。 ソラがキーボードの上を歩いたのだ。 いなくなると、たいてい布団の間や風呂場の蓋の上で寝ている。 そして時には本棚の上から本と一緒に落下し、テーブルの上の食器を落として壊してしまう。 まだ1歳になったばかりなのでイタズラ盛りで大変だが、それはそれで楽しい。 困るのは動くものなら何でも追いかけるのだ。 あるときはゴキブリを追いかけて掴まえ、口に咥えてゆかりに見せに来た。 ゆかりが逃げると追っかけてきた。 トイレに逃げ込んだが、いつまでもドアをカリカリと引っ掻いた。
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