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ひと気のない狭い小屋に連れ込まれた瞬間、オヤジが上から覆いかぶさってきて、そのまま力まかせに押さえつけられた。
オヤジは私の着物はぐのに夢中で、私の変化には気づかない。
特に、髪の間からニョキニョキはえだした耳と、背中まで伸びた、フサフサの尻尾の存在には、ね?
私は心の中でほくそ笑む。
いただきまーす!
本当は、もっと若くて綺麗な子のほうが美味しいのだけれど、一カ月ぶりのご馳走に、文句はつけてられない。
ガブリ!
相手の首に、犬歯つき立てたら、短い悲鳴をあげた。
暴れられたら面倒なので、そのまま、伸びた爪を背中につき刺す。
そうしてしばらく、口の中に広がる血の味に陶酔してた。
あぁ、たまんない。
このゾクゾクこみ上げてくる感じ。
いつも、そう、この瞬間は、目を閉じても、まぶたに浮かぶ。
…その顔、その瞳、包み込む腕、胸のぬくもり…
もう夢に出てきてくれることも、なくなってしまったけれど、笑顔も香りも、優しさも忘れない。
ありありと思い出せる。
…この瞬間だけは……
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