―追慕―

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慌ててその場を跳び退いて、間一髪で、その切っ先をよけてた。 オヤジから流れ出た血溜まりの中に、長身の男が一人、立ってる。 スッと伸ばした背筋と、袖からのぞく鍛えられた腕‥ためらいもなくスラリと構えられた剣。 殺気立つというよりは、どこか静かな目で、ただ真っ直ぐに、壁を背にして立ってる私を見据えてきた。 あたりはシンと静まりかえり、ドクドクという自分の鼓動だけが、やけに大きく響いてる気がした。 しばらくお互いに見合ってたけど、一瞬の隙をつくように、何の前触れもなく、男が剣を振り払って… その瞬間、今だ! 思って、猫の様に全身の毛を逆立てる。 ビュンッ!! 私の髪が宙を舞い、そのまま黒い束となって相手の男に襲いかかった。 流れるような動きで、そのうちのひと束が、剣を持つ男の手に絡まりつくと、他の髪たちも意思を持ったように次々と、男の体に飛びかかっていく。 いっけぇぇぇーー! そのまま相手の首に巻きついて、締めあげろっ!!
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