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「なにしてんだよー。吉岡、智紘のこと襲うなよな!」
笑いながら駆けてくる悟の後ろから、なんだか不思議そうな顔をしている祐一郎と顰め面の真人。
「あーあ、見つかっちゃった」
言葉の意味とは裏腹に、吉岡はどこかたのしそうに笑いながら、あっさりと自分を解放した。
「なになに?智紘と吉岡っていつの間に仲よくなったの?」
「んー?つい数分前からかな?」
な?と同意を求められて、おもわず呆れ顔を向けると、吉岡はぺろっと舌を出しておどけて見せた。
「それって全然仲良しじゃないじゃん!」
「これからだよ、先は長いんだからさ」
なにそれー、とぼやく悟に、ハハハと、笑い返して、吉岡は悟の後ろに立っている真人と祐一郎をちらり見上げた。
こちらからじゃ、吉岡の表情は見えないけれど、一瞬、真人の眉が僅かに動いた。
悟と話をしていた祐一郎はなにも気づいていないらしい。
すぐにこちらを向いた吉岡は、相変わらずニコニコと笑っていて、その後ろで真人はそんな吉岡の顔をずっと見つめている。
なにか違和感を覚えて。
眼があった真人は、自分の顔を見て小さく肩を竦めた。
「ま、とゆーことでさ、都築、考えておいてくれよな!いっておくけど俺、諦めは悪いから」
肩を力いっぱい叩かれて、ウッと呻いた隙に、吉岡は「それじゃ!」と大きく手を振りながら走り去ってしまった。
いったいなんなんだろう・・・・。
叩かれた肩を擦りながら、ぼんやりと吉岡の走り去った方向を見つめていると、突然腕を掴まれバランスを崩した。
「なになに?なんかあったの?」
興味津々という表情の悟の顔が間近に迫っていて、おもわず顎を引いた。
そりゃ、接点のない自分と吉岡があんな状態で話をしていたら普通は気になるだろう。
けど悟のこういう表情は曲者なわけで。
この顔で迫られれば、どんな無理難題を押しつけられたとしても、自分は頷いてしまうかもしれない。
真人にはいつも呆れられているけど、やっぱり自分は悟には弱い。
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