アネモネの想い

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「いや・・・・絵のモデルになってって」 「モデルぅ!?」  悟と祐一郎が同時に声を上げた。  すれ違った生徒たちが、その声に驚いたようにこちらをちらちらと振り返っていく。 「すごいじゃん!モデルなんてカッコイイ~!」  悟は眼をキラキラと輝かせて、舞い上がっている。  どうやらモデルという言葉が、とても魅力的に聞こえるらしい。 「吉岡って、人物も描くんだ・・・・」  不意に聞こえた言葉に顔を上げると、祐一郎がなにやら首を捻っている。  自分たちの視線に気づいたのか、祐一郎は頭をポリポリと掻きながら、小さく肩を竦めた。 「ホラ、ウチのクラスの山瀬さんも美術部だろ?前に訊いたことあったんだけど、 吉岡っていつも花の絵ばかりで人物って描いたことないらしいよ?」 「えー?じゃあ、なんで智紘をモデルにするのー?」 「さあ・・・・心境の変化じゃない?」  芸術家ってのは気まぐれだからな、と、祐一郎はケラケラと笑った。  そういえば、この前の美術コンテストの絵も、花だったという噂を聞いたことがある。  その作品はまだ校内には飾られていないから、どんな絵なのかは知らないけれど。  きっとその作品も近いうち華々しく講堂のホールに飾られることだろう。 「じゃあさ、智紘が吉岡が最初に描く人物画ってこと?なんかすごいじゃん!」  悟はまるで自分のことのように飛び跳ねてよろこんでいる。  あれだけの絵を描く人間だ。  きっと人物画を描いても、とても素晴らしい作品が仕上がるだろう。  けど・・・・けど、だ。  それとこれとは話はべつだ。 「あのね、よろこんでるとこ申し訳ないけど、俺、断ったから」 「えーーー!」  悟の突然の叫びによほど驚いたのか、ちょうど通りかかった生徒が眼を白黒させてそそくさと立ち去っていくのが見えた。  そんなことには気にも留めない悟が、ガクガクと自分の肩を揺さぶってくる。
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