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拳に力が入る。
静かに深呼吸をして。
ゆっくりと開いた眼に映った白はとても眩しくて。
僕はおもわず眼を奪われた。
静かなホールに感嘆の声が響く。
誰もが彼の絵に心奪われ、そして、その白に吸い込まれている。
もちろん僕も・・・・。
彼の絵は、花だった。
とても綺麗な白だった。
太陽の光を浴びて輝きを放っているかのように、とても美しい白だった。
中心に描かれた白い花を取り囲むように、周囲には鮮やかな赤い花が咲き誇っている。
まるで、白い花を守るかのように、赤いは力強く咲いている。
絵には詳しくない僕でさえ、その美しさに見とれて、動くことすらできなかった。
白い花と赤い花。
そして、降り注ぐ光の欠片。
とても綺麗な花たち。
でも、なぜだろう・・・・。
けどその美しい花たちが、なぜか儚くも映った。
理由なんてわからないけど、不思議とそう思った。
『アネモネの想い』
そう書かれた題名に、僕は心を動かされて。
「これ描いたのって高校生なんでしょ?」
「そうそう、すごい才能よね」
そんな小さな会話が後ろから聞こえて、僕はもう一度、絵を眺めた。
神秘的な白い花はとても美しくて。
鮮やかな赤い花もとても綺麗だ。
こんなにも誰をも魅了する絵なのに、なぜ寂しげに映るのだろう。
彼がこの絵にどんな想いを籠めたのか、僕にはわからない。
僕には、彼の心の中に入り込むことはできないから。
彼のように、花に命を宿すことなんて、僕にはできない。
まるで生きているかのように咲き誇る花たちは、 僕の心を魅了し、僕になにを訴えているかのように思えた。
きっと、この花が僕を呼んだのだろう。
それでも、僕はこの絵に隠された真実を掴むことができなくて。
彼の籠めた想いを見つけることができなくて。
美しくも儚いアネモネを、僕はいつまでも見つめていた。
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