アネモネの想い

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 美術部の期待の星。  異色の天才。  一年生のときに出品した絵が全国で優秀賞を取ったとかで、当時は結構話題になっていた。  学校創立以来の偉業として講堂のホールに華々しく飾られていたその絵は、とても繊細な一輪の花だった。  その絵の素晴らしさもさることながら、話題になったのはその繊細な絵を描く人物本人が、 その繊細さとはかけ離れた外見をしていたこともある。  最近では、ある美術館が主催する美術コンクールで最優秀賞を受賞したという噂も流れた。  吉岡の風貌に細い筆はあまりにもミスマッチのような気もするが、 能ある鷹は爪を隠す、なのかなんなのか、その瞳の奥には素晴らしい才能が秘められていることはたしからしい。  けど、なぁ・・・・。  だからといって、それはそれ、これはこれだ。  見るだけならともかく、ましてやモデルなんてものを軽々しく引き受ける気はさらさらないわけで。 「悪いけど、俺には無理だよ」  そろそろ昼休みも終わる。  下手に悩んだフリでもして期待を持たせるのもどうかと思うし。  この場合はさっさと逃げたほうが賢いだろう。  申し訳なさそうに、ごめんね、と呟いて吉岡に背を向けた瞬間、強い力で腕を引かれ、そのまま壁に押しつけられた。  痛くはないけど、僅かな衝撃に一瞬息が詰まった。 「まだ逃がさない」  その声に顔を上げると、自分を挟み込むように両手を壁につけ至近距離でにこりと笑った。  どうやら逃げ道は塞がれてしまったらしい。 「なんのつもり?」 「イエスっていってくれるまで、離さないからな」 「だから、俺には無理だって」 「なんで?なんで無理だって思うんだよ?」  必死な吉岡に向かって、さすがに「面倒だから」とはいえない。  困ったように首を傾げて小さく息を吐いた。 「モデルなら俺より相応しい人がいるだろう?」 「違う。俺は都築を描きたいんだよ。おまえがモデルやってくれたらすごくイイ絵が描けると思うんだ」
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